オープンアクセス

附属図書館提供・機関リポジトリ収載の記事「オープンアクセスについて」も参照ください.

オープンアクセスの潮流にある背景

論文流通形態の変遷;紙からインターネットへ

かつて学術論文は紙媒体で発行され,大学附属図書館は出版社や学会に対して冊子体による購読契約を結び,学内で冊子を提供していました。読者はその存在を検索し,貸し出し,しかし,インターネットの普及に伴い,出版サイドは次第に冊子体の提供を終了し,学内読者がインターネット経由で論文を閲覧できる電子ジャーナル契約へと移行していきました。
この新たな提供形態では,読者は一定の条件下(たとえば,学内ネットワークに基づくIPアドレス制限,または共通ID・パスワードによる認証など)で電子ジャーナルを利用できるようにしています.しかしその一方で,Web検索エンジンや文献データベース(たとえば Web of Science, Scopus, Google Scholar 等)の登場により,論文の可視性や到達性は,読者側の検索導線やデータベース上の掲載有無に大きく依存するようになっていきます。

論文の可視性と評価

かつては雑誌単位の評価指標であったインパクトファクタ(JIF)は,その値に比例した読者の耳目を集める効果もありました.しかし,近年では閲覧数,ダウンロード数,被引用数など,論文個別の可視性を示す指標が登場し,それらが実質的な影響力の指標,すなわち評価とみなされるようになりました。これら可視性の確保は,検索エンジン最適化や広報戦略を含めた情報発信能力を有する大手出版社が得意とする分野であり,そのため多くの学会は自主出版方針を変えて,論文誌の編集・出版事業を大手出版社に委託するケースが増えてきました。

大手出版社の寡占化が招く「論文が読めない」事態

こうした流れは,学術出版における大手出版社の寡占化を一層進行させました.競争原理が働かなくなることより,電子ジャーナル契約価格は高騰し続けています.たとえば本学附属図書館では,電子ジャーナルおよび文献データベースの購読維持に年間約1.5億円支出していますが,まだまだ契約費用は年々増額傾向にあります.すでに購読を中止せざるを得なかった雑誌やパッケージも複数存在し,分野ごとにアクセス格差が生じつつあるのが現状です。さらに,現在契約中の論文誌についても,為替変動,契約料金改定のリスクなどから,将来にわたり安定して購読を維持できる保証はなく,これは研究・教育活動の基盤を揺るがしかねない深刻な課題です。著作権によってプロプライエタリ論文の流通に関しては大きく制限されているため,学生や研究者にとって「お金を払わないと読みたくても読めない論文」が積み上がっていくことは,大学の教育研究機能を直接的に阻害する要因となっています。
こうした状況を背景に,欧州を中心に推進されたのが「オープンアクセス(Open Access)」の理念です。これは,少なくとも公的資金で行われた研究成果は,誰もが無償で自由にアクセスできるべきであるという考え方に基づいており,研究成果の公開モデルを根本から見直す動きです1

APC(著者支払型)モデル

オープンアクセスの中でも広く普及しているのが,著者がOA掲載料(APC: Article Processing Charge)を支払うことで,論文を即時に公開する「ゴールドOA」と呼ばれるモデルです。読者に課金しない代わりに,著者(またはその所属機関・助成団体)が費用を負担する仕組みです。
一方,従来の研究論文出版は,読者が購読料を支払う,ないしは,附属図書館が購読契約を結んで組織内の読者の購読料を肩代わりする形態(プロプライエタリ)が採られており,現在でも多くの場合,著者の負担はありません.そのような論文誌において,著者が追加でAPCを払うことによって当該論文だけをオープンアクセスにできるモデルも存在し,それを「ハイブリッドOA」と呼んでいます.
学会の論文誌によっては,会費等を支払う読者にのみ購読を許し(プロプライエタリ),かつ,著者もAPCを支払って出版する形態を採用していることも多くあります(購読・出版に二重にコストがかかっている).そのような雑誌で,さらに追加でAPCを払えばオープンアクセスにできる場合もあり,これも事実上「ハイブリッドOA」と言えます(著者からすると三重コストです).
読者にとってもプロプライエタリ出版モデルによる論文は「お金を払わなければ読めない論文」です.読者のフラストレーション,国際競争からの圧力,また,投稿減少への危機感から,多くの出版社は「グリーンOA」を認めるようになりました.グリーンOAはしばしばセルフアーカイビングとも呼ばれます.つまり,論文の審査で採録になった論文について校正前の著者最終原稿(AAM: Accepted Author’s Manuscript)を,著者自身のウェブサイトや,機関リポジトリに掲載・公開することですが,これについては多くの学会・出版社は認めています.このグリーンOAな論文が流通すると「お金を払わないと読めない論文」しかない状況を緩和することができます.ただし,公開による学会・出版社の権利・収益を過度に損なわせないよう,一定期間,グリーンOA公開を保留するエンバーゴという制度を取ることが出版側に認められており,著者は注意が必要です(機関リポジトリを用いる場合は,附属図書館が出版社の条件をチェックし,エンバーゴが過ぎた後に公開するなど,管理をします).なお,オープンアクセス誌ではもともと全部公開ですので,グリーンOAの必要性がありませんが,出版まで時間がかかる場合のビジビリティ確保,先取権(プライオリティ)主張のため,グリーンOAも可能している場合があります.
APCの高額化や出版社間での価格差、著者の経済的負担への懸念も存在し、研究者コミュニティや図書館コンソーシアムを中心に価格透明性と上限の設定を求める動きも活発化しています。

プレプリント(Preprint)

近年では査読前の論文原稿を公開する arXiv, bioRxiv, SocArXiv, Jxiv などのプレプリントサーバも大きな役割を果たしています。プレプリントは,論文の迅速なオープンアクセス公開,プライオリティ取得と議論の活性化をコミュニティに促しますが,リスクも発生します.プライオリティの主張は精神論的側面もあるため(機械的に内容を保護できるわけではない),場合によっては模倣・窃取につながることはありえます.プレプリントは多くの場合,専門家による査読は行われていないことがほとんどであり,プレプリントの同じ内容を査読論文誌に投稿した場合,既出論文とみなされることによる不利益を受ける可能性があることも現状では否めません.そういった扱いとは矛盾しますが,査読を経ていないということは,それ自身は査読論文とは一線を画する扱いを受けることが当然とも言えます.よって,プレプリントサーバの利用には十分な検討が必要です.

なお,附属図書館が運営する機関リポジトリ JAIRO Cloud では,プレプリントサーバとしても利用可能です.DOIも付与することができます2

転換契約

購読モデルからオープンアクセスモデルへと段階的に移行する手段として,転換契約(Transformative Agreement)が各国の大学・図書館コンソーシアムと大手出版社の間で進められています.これは,従来の購読費用をベースにしつつ,著者がOA論文を割引価格,ないしは追加費用なしで公開できるよう調整された新しい契約形態であり,「Read & Publish」や「Publish & Read」モデルとして具体化しています.本学でもWiley, Elsevier に関しては転換契約を実施しています.転換契約でオープンアクセス出版を行うにはいくつかの条件がありますし,大学全体で上限が設定されています.しかし,転換契約を用いずにゴールドOAを行うより安価にオープンアクセスが実現できます.詳細は附属図書館「オープンアクセス出版について」のページを参照ください.
欧州では「Plan S」などの政策により、このような転換契約が急速に進展していますが、日本国内ではまだ十分に普及しているとは言えず、今後の制度設計と予算措置が重要な鍵となります.科学研究費などの競争的資金の申請においても,オープンアクセス出版を見込んだ予算を盛り込む必要があります.
現在、学術出版のエコシステムは急速に変容を遂げつつあり、大学や図書館は、これまでの「読むための契約」から、「発信・可視化を支援する契約」への転換を迫られています。オープンアクセスの推進は、そのための重要な一歩であり、大学全体としての戦略的な意思決定が求められています。

ハゲタカ誌

オープンアクセス誌のうち,投稿論文をほとんど査読しない,もしくは無査読で採録し,APCが納付されれば公開されるというデタラメな雑誌が存在し,通称ハゲタカ誌と呼ばれています.研究倫理に深く関わることですので,研究倫理のページも御覧ください.ハゲタカ誌に投稿する羽目に陥らない対策としてはブラックリストの検索,チェックリストの利用が有効ですが,一方でホワイトリストの検索も活用ください.なお,オープンアクセス誌の条件は,オンラインでISSNを持ち,Creative Commons ライセンス(CC-BY 4.0相当以上)が明記されていることです.さらにはDOAJ(Directory of Open Access Journal) に登載されていること,論文にもれなくDOI (Digital Object Identifier) が振られていること,査読プロセスが明確なことが付加的に求められており,ハゲタカ誌はこれらが遵守されていないことが多いようです.

本学におけるオープンアクセス促進手順

論文誌からの採録通知後,校正等から公開までの期間(数ヶ月〜半年)は成果の迅速な公開に影響を与えることも考慮し,即時オープンアクセス実現のためには,本学において次のワークフローが想定されます

  • オープンアクセス誌への投稿
    • ハゲタカ誌ではないことを確かにする.APCに応じた予算の確保
    • 大手出版社の論文誌であれば,転換契約によるAPC減免を受けられないかを確認(附属図書館「オープンアクセス出版について」を参照
    • 採録決定後,次のどちらか,ないしは両方を実施.
      • AAM(著者最終原稿)を附属図書館に送付すれば(EDBの著作登録インタフェースにアップロード機能が提供されている),速やかに機関リポジトリに掲載される.エンバーゴが設定されている場合はその期間が終了ののち,リポジトリ掲載となる.なお,一つの著作物に一つのDOIという観点からは,このAAMにはDOIは付かない.
      • 出版社・学会の公開プラットフォームに早期公開機能がある場合はそれを利用.多くの場合,AAMがそのまま掲載されることが多い.有料の場合もある(多くの場合,DOIが付き,そのまま公開論文のDOIとして運用され,校正が終われば正式版と差し替えられる).
    • なお,附属図書館は,著者依頼ベースでAAMを機関リポジトリ収載する以外に,Creative Commons ライセンスが確認された学内の出版物の機関リポジトリ収載も実施している.
  • 非オープンアクセス誌(プロプライエタリ誌)への投稿
    • ハイブリッドOAのオプションの有無を確認.有るのであれば予算確保.掲載料は無料だが,OA化には費用が発生する場合や,掲載料・OA化費用ともに有料となる場合がある.
    • ハイブリッドOA化に関して,転換契約による減免を受けられないかを確認.
    • 採録決定後,機関リポジトリにAAMを附属図書館に送付(EDBの著作登録インタフェースにアップロード機能が提供されている).附属図書館は,掲載の可否条件等を確認したうえで適切に機関リポジトリに掲載を行う(エンバーゴが必要な場合はその期間が終了ののち,リポジトリ掲載となる).なお,オープンアクセス誌に比較すると,エンバーゴを実施する雑誌が多い.
  • プレプリントサーバを利用している場合,同様の内容で公刊論文となった場合は,サーバ運営事業者の条件にしたがい,公刊論文の表示を行うなどの作業を実施

オープンアクセスについての解説

日本の学術論文等のオープンアクセス政策について
(内閣府 科学技術・イノベーション推進事務局)
日本国のオープンアクセス政策動向を整理
オープンアクセス・オープンサイエンスと機関リポジトリ
(国立大学図書館協会セミナー資料)
OA/オープンサイエンスの概念と機関リポジトリ運用との関連を解説
オープンアクセスのこれまでとこれから
(J-STAGEセミナー資料)
国内外の OA 動向、制度動向、今後の展望を整理。

徳島大学内関係サイト資料等

関連サイト

参考文献・脚注

  1. オープンアクセスハンドブック,第3版,東京大学附属図書館,Aug. 2025. DOI: 10.15083/000201401 ↩︎
  2. プレフィックスはきりのよい 10.15000 となっています ↩︎